Q.
新人公演カンテの応援評を読んで、
小森さんにぜひ聞いていただきたいお願いがあります!

文中に「エレベーター下り」「階段下り」「抜きこぶし」などの独特の表現があり、
想像はつくのですが、これらの言葉についてもう少し具体的に、
ニュアンスなどをご説明いただけないでしょうか?

実際に歌っている人間にはある程度わかるのですが、一般には知られていない、
スペイン語の訳(ペジスコをつねりというような)でもない定義(単語)だと思われますので。

フレーズ末の音の降り方に関しては、私はいまだコントロール不能な部分があり、
文中に数回登場したこの降り方の定義に、大変興味があります。
カンテを勉強し始めた方にも、大変よい技術的示唆が含まれていると思いますので、
ぜひお願いします。


A.
うちの教室で使っている私語を勝手に書いてしまって申し訳ない(^^ゞ
何しろ自己中なもんで(^o^;

まず、エレベーター下りの説明だけど、カンテ(ナチュラルもの)の締めの部分、
例えば E のキーの場合は『 ラ・ソ・ファ・ミ(またはソ・ファ・ミ)』
A のキーならば『レ・ド・シ♭・ラ(またはド・シ♭・ラ)』と下りる部分、
そこを、間の音をとばして一気に下りてしまうことを
エレベーター下り(または飛び下り)と名付けました。
特に E の場合の『ファ』、A の場合の『シ♭』をおざなりにするケースがよく見られます。

しかし『ファ→ミ』または『シ♭→ラ』をはっきり分けて下りるのが、唄として欠かせない。
これが私の信条なんです。

つまり、階段を一段ずつしっかり下りること、これが階段下りの意味です。

さらに欲をいえば、E の場合は『ソに♯っぽさ』を、A の場合は『ドに♯っぽさ』を。
これが加われば、さらに味わいが深まります。

ギターのファルセータも全く同じで、ほとんどの場合、ソとかドには♯をつけて下りていきます。
いちばんわかりやすいのは、やはりパコ♪

あと、抜きこぶしについてですが、
これをふんだんに使って世に広めたのが、カマロンだと思います。

ただし、古いカンタオールの M.カラコール や T.パボン なども、瞬間的ではあれ
使ってるように思われるし、A.マイレーナ もさすがにここぞという部分では導入しています。

カマロンの魅力のひとつが、抜きこぶしと波こぶし(波のよぅに同じこぶしを二回以上続ける)
だと思います。彼の影響を受けたほとんどの唄い手は、このテクニックを多かれ少なかれ使います。

特にふんだんに取り入れてるのは、ドゥケンデ、M.ポベーダ、エストレージャ.モレンテ、
レメディオス.アマージャ、ラ.ターナ etc…。
また日本の唄い手でも、高岸さんや今枝さんが絶妙に取り入れて唄ってます。

技術的にいえば、あくまでも一つの例だけど、『レー(ミレ)ドシ♭ラ』と下りる場合、
『(ミ・レ)』の部分がこぶしになるけど、その『ミ』の音がミよりももっと上に抜ける、
つまり『(ファ・レ)』みたいな感じにきこえる。
これを抜きこぶしと名付けました。ただし音符に表すことは不可能です。

例をあげると、わかりやすいのは、カマロンの一枚目のアルバムのタンゴ「 Detras del tuyo se va 」の
tu〜yo se va の 〜の部分、あとタラント「 Camina y dime 」の
…le ha cortao la dos manos〜〜ayay〜〜〜 の 〜〜 の部分とか、
他にも数え切れないほどあるけど…。

ちなみに、パコ・デ・ルシアやトマティート、V.アミーゴ他、モデルノ系ギタリストたちも
ギターで抜きこぶしをふんだんにやってますよ!
もちろんパコが始めたものだけど。

以上文字による説明はこんな程度しか出来ません(>_ <)

コモロン